◎「レコード演奏・伝達権」の創設

3年後に成立しそうな「レコード演奏・伝達権」創設について考えます。

音楽業界の法改正は、いつも少し遅れてやってきます。(笑)

配信が当たり前になり、SNSで音楽が拡散され、店舗やイベントでストリーミング音源が流れる現代において、レコード(音源)に関する権利のあり方は、実態とのズレが目立ち始めています。

その中で、ここ数年じわじわと議論が進んでいるのが
「レコード演奏権・伝達権」の創設です。

おそらく、今後3年以内に何らかの形で制度化される可能性は高いと考えています。

ここでは、

  • そもそも何が問題なのか

  • なぜ今になって議論が加速しているのか

  • もし成立したら何が変わるのか

  • 誰にどのような影響が出るのか

を整理してみます。


1.現行制度の『ねじれ』

まず大前提として、日本の著作権制度では次のような整理になっています。

作詞・作曲家(著作者)

  • 演奏権

  • 公衆送信権

  • 伝達権

  • 複製権 など

これらは主にJASRACなどの管理団体が管理しています。

実演家・レコード製作者(原盤側)

  • 複製権

  • 公衆送信権(送信可能化権)

  • 二次使用料請求権(放送・有線放送) など

しかし重要なのは、レコード製作者には「演奏権」がないという点です。

つまり、

  • 店舗でCDを流す

  • イベントで音源を再生する

  • クラブで音楽をかける

といった行為について、原盤側は原則として許諾権を持っていません。

現在は、放送や有線放送について二次使用料制度がありますが、
店舗での再生などについては、実質的に十分な対価を得られていない状況が続いています。

これが長年指摘されてきた制度上のねじれです。


2.なぜ今、制度改正が現実味を帯びているのでしょうか

(1)国際的な整合性の問題

欧州では、レコード製作者や実演家に対して、公衆への再生に関する権利や報酬請求権が広く認められています。

WIPO実演・レコード条約(WPPT)との整合性という観点から見ても、日本の制度はやや限定的です。

海外との契約実務においても、

「なぜ日本では原盤側の権利が弱いのか」

という指摘は以前からあります。

国際的な整合性の確保は、改正を後押しする大きな要因の一つです。


(2)ストリーミング時代の矛盾

現在、店舗やイベントで流れている音楽の多くは、

  • CD

  • ダウンロード音源

  • ストリーミングサービス

です。

しかしストリーミング音源は、本来「私的利用」を前提とした契約が多く、店舗利用は契約違反となるケースもあります。

それにもかかわらず、現実では広く利用されています。

つまり、実態と法制度が大きく乖離している状態です。

このズレを制度として整理する必要性が高まっています。


(3)レコード産業の構造変化

CD売上は長期的には減少傾向にあり、収益の中心は配信へと移行しています。

しかし配信収益は一部のヒット曲に集中しやすい傾向があります。

一方、店舗やイベント、BGM市場は安定的な利用があります。

ここに適切な分配制度が整備されれば、

  • 中堅アーティスト

  • 過去のカタログ作品

  • インディーズ原盤

にも持続的な収益源が生まれる可能性があります。

これは業界全体にとって大きな意味を持ちます。


3.想定される制度設計

議論されている方向性としては、主に次の2つが考えられます。

① 許諾権型

店舗再生に原盤の許諾が必要になる方式です。

ただし実務負担が非常に大きく、現実的ではない可能性が高いと考えられます。

② 報酬請求権型(拡張二次使用料方式)

許諾は不要としつつ、使用料の支払い義務を課す方式です。

この場合、管理団体が徴収・分配を行う集中管理方式が想定されます。

成立するとすれば、②の形が有力と見る向きが多いです。

つまり、店舗で音楽を流す場合、作詞作曲の使用料に加えて原盤側にも使用料が発生するという構造になる可能性があります。


4.成立した場合のインパクト

■ レコード会社

安定的な追加収益源が生まれる可能性があります。

  • カタログ資産の価値向上

  • BGM市場への正式参入

  • 原盤ビジネスの強化

特に大手企業への影響は大きいと考えられます。


■ アーティスト(実演家)

分配ルール次第ですが、

  • 新たな印税収入

  • 過去作品からの継続的収益

が期待できます。これは、フリーランスのクリエイター(ミュージシャン)には大きいです。

ただし契約内容によってはレコード会社に帰属する割合が高い可能性もあり、契約実務の見直しが進むことも考えられます。


■ 店舗・イベント主催者

一定の負担増は避けられません。

ただし、

  • 年間包括契約

  • 一括管理方式

が整備されれば、大きな混乱にはならないと考えられます。

現在JASRACに支払っている枠組みが拡張されるイメージに近いです。


■ BGM配信サービス

大きな影響を受ける分野の一つです。

  • 権利処理の再設計

  • 使用料上昇

  • 価格転嫁

など、事業モデルの見直しが必要になる可能性があります。


5.ビジネス面で何が起きるでしょうか

この改正は単なる使用料の追加ではありません。

音源の公共空間利用に明確な経済価値が付与されることを意味します。

その結果、

  • 店舗向け音楽キュレーション市場の拡大

  • BGM専門レーベルの登場

  • 空間設計を前提とした音楽制作

  • データを活用した音楽マーケティング

といった二次的ビジネスが活性化する可能性があります。

音楽は「作品」としてだけでなく、「空間価値を創出するインフラ」として再定義されるかもしれません。


6.3年後、成立する可能性はどの程度でしょうか

様々な報道によりますと、70%程度の確率で何らかの制度改正が実現すると予測されます。

理由は次のとおりです。

  • 国際整合性の確保という政策的要請

  • 業界団体の継続的な働きかけ

  • デジタル時代に合わせた制度再設計の流れ

  • コンテンツ産業強化という文化政策上の位置付け

政治的にも比較的通しやすいテーマといえます。

利用者側の負担増はありますが、社会的反発は限定的と考えられます。


7.今から備えるべきこと

レコード会社・原盤保有者

  • 契約書の再点検

  • 実演家との分配設計の見直し

  • カタログ整理と権利帰属の確認

アーティスト

  • 原盤権の帰属確認

  • 将来分配を見据えた契約交渉

店舗・事業者

  • BGM利用実態の把握

  • 正規サービスへの切替検討


まとめ

レコード演奏・伝達権の創設は、単なる「使用料追加」の話ではありません。

それは、

  • 音楽の公共空間利用の価値を再定義する動き

  • 原盤ビジネスの再構築

  • 配信時代に合わせた権利体系のアップデート

を意味します。

音楽産業は今、第二の制度転換期にあるのかもしれません。

3年後に制度が成立していたとしても、それは突然の出来事ではなく、長い議論の積み重ねの結果です。

今からその変化を前提に動くことが、次の音楽ビジネスの鍵になるでしょう。

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