◎日本郵便がフリーランス法違反

なぜ違反は減らない?行政書士が原因と企業の対策を解説

2026年9月2日、公正取引委員会は日本郵便株式会社に対し、いわゆる「フリーランス法」に違反する行為があったとして、再発防止などを求める勧告を行いました。

日本郵便という大企業が対象になったことで、驚いた方も多いのではないでしょうか。

しかし、このニュースを「日本郵便だけの問題」と考えるのは適切ではありません。

公正取引委員会が公表しているフリーランス法の運用状況を見ると、企業がつまずきやすいポイントが見えてきます。

特に多いのが、

  • 取引条件を適切に明示していない
  • 決められた期日までに報酬を支払っていない

という問題です。

なぜ、法律が施行され、企業への周知も行われているのに、このような違反が起こるのでしょうか。

今回は、日本郵便への勧告を題材として、フリーランス法の基本と、企業が注意すべき「契約・発注・支払い」のポイントを行政書士の視点から考えてみます。

日本郵便はフリーランス法の何に違反したのか

公正取引委員会の2026年9月2日の発表によると、日本郵便は、研修の実施や郵便物等の配達などの業務をフリーランスに委託していました。

公正取引委員会が認定した問題は、大きく二つあります。

1.取引条件を直ちに明示していなかった

2024年11月1日から2025年6月30日までの間、167名のフリーランスに業務委託をした際、法律上必要となる明示事項の全部または一部を、直ちに書面または電磁的方法で明示していませんでした。

これはフリーランス法第3条第1項の「取引条件の明示義務」に関する違反です。

2.支払期日を定めず、法律上の期日までに報酬を支払っていなかった

もう一つは報酬の支払いです。

140名のフリーランスについて、業務委託をした際に報酬の支払期日を定めておらず、フリーランスから給付を受領した日、または役務の提供を受けた日までに報酬を支払っていませんでした。

公正取引委員会は、これをフリーランス法第4条第5項の「期日における報酬支払義務」に違反すると認定しています。

これらを受け、公正取引委員会は日本郵便に対して、今後、取引条件を適切に明示することや、法律に従って定められた支払期日までに報酬を支払うことなどを勧告しました。

そもそも「フリーランス法」とは?

正式名称は、

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」 です。

2024年11月1日に施行されました。

法律の目的は、働き方が多様化する中で、個人が事業者として受託した仕事に安定的に従事できる環境を整えることにあります。

フリーランスと発注事業者との間には、交渉力や情報量などに差が生じることがあります。

そこで法律によって一定のルールを設け、取引の適正化と就業環境の整備を図ろうというものです。

フリーランスへの発注時には「取引条件の明示」が必要

フリーランス法第3条第1項では、事業者が対象となるフリーランスに業務委託をした場合、原則として「直ちに」取引条件を明示することを求めています。

明示は書面だけでなく、一定の電磁的方法でも可能です。

公正取引委員会規則では、発注事業者・フリーランスを識別できる名称等、業務委託をした日、委託する業務の内容など、明示すべき事項が定められています。

実務上、特に確認しておきたいのが、

「何を依頼するのか」

「報酬はいくらなのか」

「いつ支払うのか」

という基本的な取引条件です。

取引先との信頼関係があるからといって、口頭だけで済ませればよいという問題ではありません。

報酬の支払期日は「60日以内なら何でもいい」ではない

フリーランス法第4条第1項では、一定の発注事業者が対象となるフリーランスに業務委託をする場合、報酬の支払期日を、給付を受領した日などから起算して60日の期間内で、かつ「できる限り短い期間内」に定めなければならないとしています。

ここで注意したいのが、

「60日以内に支払えばいい」

という理解です。

法律は、単に最終的な支払いが60日以内ならよいとしているのではありません。

まず、法律に従った支払期日を「定める」ことが重要です。

そして、定めた支払期日までに実際に報酬を支払う必要があります。

なぜフリーランス法違反は減らないのか?

今回のニュースで考えたいのはここです。

公正取引委員会の令和7年度の運用状況によると、措置の対象となった違反行為を類型別に集計すると合計2,727件ありました。

その中で最も多かったのが、

「期日における報酬の支払義務違反」1,135件(41.6%) です。

次が、「取引条件の明示義務違反」1,126件(41.3%) でした。

この二つだけで8割を超えています。

つまり、特殊で難解な法律問題よりも、

「条件を明確にして発注する」

「決められた期日までに報酬を支払う」

という取引の基本部分で問題が多く発生しているのです。

なぜなのでしょうか。

それは、主に次の5つの理由があると考えています。

理由1 「契約書があるから大丈夫」という思い込み

企業では、フリーランスと継続的に取引する場合、「業務委託基本契約書」を締結することがあります。

そのうえで、個別の仕事をメールや発注書、発注システムなどで依頼するケースも多いでしょう。

ここで注意したいのが、

「基本契約書を作ったからフリーランス法対応は終わった」

と考えてしまうことです。

実際には、個々の業務委託について法律上必要となる事項が適切に明示されているかを確認する必要があります。

大切なのは「契約書という書類が存在すること」ではありません。

契約から個別発注までを含め、必要な情報が相手に適切に明示される仕組みになっていることです。

理由2 昔からの商慣行が残っている

企業の取引ルールは、法律が変わったからといって翌日からすべて変わるわけではありません。

「昔からこの方法で発注している」

「いつもの外注先だから電話で頼んでいる」

「金額は仕事が終わった後に決めている」

「請求書が届いてから経理が支払日を決める」

こうした商慣行が残っている企業もあるでしょう。

しかし、フリーランス法は2024年11月に施行されています。

従来問題なく行っていた方法でも、現在の法律に照らして確認すると改善が必要になっている可能性があります。

理由3 現場・法務・経理のルールがつながっていない

特に組織が大きくなるほど重要になる問題です。

フリーランスへの業務委託には、

仕事を依頼する「現場」

契約内容を確認する「法務」

発注処理を行う「購買」

報酬を支払う「経理」

など、複数の部署が関係する場合があります。

例えば法務部門が完璧な契約書を作っていても、現場担当者が正式な発注前に「とりあえず始めてください」と依頼してしまえば問題が起こり得ます。

反対に、発注手続きが適切でも、会社の支払システムが法律上求められる支払期日に対応できていなければ、別の問題が発生します。

フリーランス法対応は、法務部だけの仕事ではありません。

会社全体の「発注から支払いまでの流れ」の問題なのです。

理由4 フリーランス側から指摘しにくい

発注者とフリーランスでは、どうしても力関係に差が生じることがあります。

仕事を継続して受けたいフリーランスからすると、

「支払期日が書いてありません」

「この契約条件はフリーランス法上問題があるのではないでしょうか」

とは言いにくい場合があります。

法律では、フリーランスが違反事実を公正取引委員会または中小企業庁長官に申し出る制度が設けられており、その申出を理由とした取引停止などの不利益な取扱いも禁止されています。

それでも、人間関係や今後の仕事を考えれば、指摘をためらう人がいることは想像できます。

だからこそ、発注する側が自主的にルールを整えることが重要なのです。

理由5 法律対応を「契約書の修正」だけで終わらせている

ここが、企業のフリーランス法対応で特に重要なポイントだと思います。

新しい法律ができると、

「契約書のひな形を改訂しよう」

となりがちです。

もちろん契約書の確認は重要です。

しかし、フリーランス法対応では、それだけでは十分ではありません。

実際の取引では、

相談 → 見積り → 発注 → 業務開始 → 納品・役務提供 → 検収 → 請求 → 支払い

という流れがあります。

このどこか一つでも法律と社内運用がずれていれば、問題が発生する可能性があります。

したがって、本当に必要なのは「契約書チェック」だけではなく「業務フローチェック」なのです。

「違反が多い」ことをどう見るべきか

公正取引委員会の令和7年度の数字を見ると、フリーランス法違反が非常に多い印象を受けます。

ただし、ここには注意も必要です。

法律が施行されたことで、これまで曖昧だった取引ルールが明文化されました。

さらに、公正取引委員会による調査や指導が進めば、従来は表面化していなかった問題も把握されるようになります。

そのため、措置件数の多さだけをもって、

「企業のコンプライアンス意識が急激に低下した」

と結論づけることはできません。

むしろ、「従来の取引慣行と新しい法律とのズレが可視化されている」

と考える方が実態に近いのではないでしょうか。

中小企業こそ確認するべき5つのポイント

今回の日本郵便への勧告を「大企業だから起きた問題」と考えるべきではありません。

フリーランスを利用している中小企業でも、

① 仕事を依頼した時点で必要な取引条件を明示しているか

② 報酬額を明確にしているか

③ 支払期日を明確にしているか

④ 契約書と実際の発注方法が一致しているか

⑤ 経理部門の支払処理まで法律に対応しているか

を確認してみることをおすすめします。

特に、「いつもの相手だから」「少額の仕事だから」「メールで話が通じているから」

という理由で手続きを簡略化している場合には注意が必要です。

フリーランス法対応は「信頼関係を守る仕組み」

法律というと、「会社を縛るもの」「守らないと処分されるもの」

という印象を持つかもしれません。

しかし、私は少し違う見方をしています。

取引内容、報酬額、支払日を最初に明確にしておけば、

「そんな条件だとは聞いていない」「金額が違う」「いつ振り込まれるのかわからない」

といったトラブルを減らすことができます。

これはフリーランスを保護するだけではありません。

発注企業にとってもメリットがあります。

フリーランス法対応とは、企業とフリーランス双方の信頼関係を守るための「取引の交通ルール」と考えることができます。

契約書ではなく「発注から支払いまで」を確認しよう

日本郵便への今回の勧告で、公正取引委員会が認定したのは、

「取引条件の明示義務違反」「期日における報酬支払義務違反」でした。

そして公正取引委員会の令和7年度の運用状況でも、この二つが違反類型の大部分を占めています。

ここから企業が学ぶべきなのは、「契約書を作れば大丈夫」ではなく、

「発注から支払いまでの仕組み全体がフリーランス法に対応しているか」

を確認する必要があるということです。

法律対応は、単に違反を避けるためだけのものではありません。

取引条件を明確にすることは、フリーランスとの信頼関係を築き、企業自身を契約トラブルから守ることにもつながります。

よくある質問(FAQ)

Q1.フリーランスへの仕事の依頼は口頭だけでも大丈夫ですか?

フリーランス法第3条の対象となる業務委託では、法律上必要な事項について書面または電磁的方法による明示が必要です。

そのため、「口頭で説明したから大丈夫」と考えるのは危険です。

実際の取引方法に合わせて、契約書、発注書、メール、発注システムなどを組み合わせ、必要事項が記録として残るようにしておくことが重要です。

Q2.業務委託契約書を締結していれば問題ありませんか?

契約書があるだけでフリーランス法への対応が完了するとは限りません。

基本契約書とは別に個別発注を行う場合には、個々の発注について必要事項が適切に明示されているか確認する必要があります。

契約書だけではなく、実際の発注方法まで確認しましょう。

Q3.報酬は60日以内に支払えば問題ありませんか?

単純に「60日以内ならいつでもよい」というわけではありません。

フリーランス法第4条第1項は、対象となる取引について、給付を受領した日等から起算して60日の期間内で、かつ「できる限り短い期間内」に支払期日を定めることを求めています。

そして、その支払期日までに報酬を支払う必要があります。

Q4.フリーランス法は中小企業にも関係しますか?

関係する可能性があります。

フリーランス法は「大企業だけを対象にした法律」ではありません。

ただし、どの義務が適用されるかについては、発注者や受注者の属性、業務委託の内容や期間などによって異なります。

「フリーランスに仕事を頼んでいる」という企業は、自社の取引がどの規定の対象になるのかを一度確認しておくと安心です。

Q5.会社はまず何から確認すればよいでしょうか?

最初におすすめしたいのは、契約書だけではなく、

「誰が、いつ、どのような方法でフリーランスに仕事を発注し、どのように報酬を支払っているのか」

という実際の業務フローを書き出してみることです。

そのうえで、

契約書
発注書
メール等の発注方法
請求方法
支払方法

を順番に確認すると、法律と実務のズレを発見しやすくなります。

フリーランスとの業務委託契約に不安がある企業の方へ

当事務所では、業務委託契約書など企業法務に関するご相談をお受けしています。

フリーランス法への対応では、契約書の文言だけを見るのではなく、

「実際にどのように仕事を依頼しているのか」

「報酬額や支払期日をどの段階で伝えているのか」

「契約書と現場の運用にズレがないか」

という視点も重要です。

「今使っている業務委託契約書で大丈夫だろうか」

「発注書には何を書けばよいのだろう」

「フリーランス法に合わせて社内の発注方法を見直したい」

といった疑問がありましたら、どうぞご相談ください。

※本記事は2026年9月2日時点で公表されている法令・公正取引委員会資料をもとに、一般的な情報を提供することを目的としています。個別案件についての法的判断を示すものではありません。