◎AI時代、行政書士は著作権ビジネスで何ができるのか

契約・ライセンス管理という新市場

生成AIが日々、進化しています。

文章だけでなく、イラスト、写真、音楽、動画、漫画、キャラクターなど、さまざまなコンテンツをAIで生成できるようになりました。

そこで問題になっているのが「著作権」です。

「自分の作品がAIに使われたらどうなるのか」

「自社のキャラクターを生成AIで利用してもよいのか」

「取引先から納品された画像をAIで加工しても大丈夫なのか」

このような疑問は、これから企業やクリエイターの間でますます増えていくでしょう。

そして、ここには行政書士にとって新しい仕事の可能性があります。

それが、「AI時代の著作権契約・ライセンス管理」です。

AI時代は「著作権を守る」だけでは足りなくなる

これまで著作権の相談というと、

「無断転載された」
「勝手に写真を使われた」
「著作権侵害ではないか」

といった「権利を守る」話が中心でした。

もちろん、これからも権利保護は重要です。

しかしAI時代には、もう一つ重要な考え方が必要になります。

それは、

「どのような条件なら使わせてもよいのか」

を決めることです。

前回の記事では、日本のアニメや漫画などのIPを生成AIで正規利用できる仕組みと、

「アニメ・漫画のデジタル版JASRAC」という考え方を紹介しました。

音楽のように、

「利用を全面禁止する」のではなく、

「ルールを決めて利用を許諾し、利用されたら権利者へ対価を還元する」

という発想です。

この仕組みが広がれば、必要になるのはAI技術だけではありません。

むしろ重要になるのが「契約」です。

AI時代に重要になるのは「何を、誰に、どこまで許すか」

著作物の利用許諾契約では、

「誰が」
「何を」
「どのような目的で」
「どの範囲まで」
「いつまで」
「いくらで」

利用できるのかを決めます。

これは従来の著作権契約でも基本的には同じです。

ところがAIが入ってくると、新しい問題が加わります。

たとえば、イラストレーターが企業へキャラクターを納品したとします。

その契約書に、

「生成AIへの入力を認めるのか」

「AI学習への利用を認めるのか」

「AIによる加工や改変を認めるのか」

「生成された画像を広告に利用してよいのか」

「第三者のAIサービスへデータを送信してよいのか」

といった条件まで書かれているでしょうか。

数年前に作った契約書なら、こうした項目が存在しないことも珍しくないでしょう。

つまりAIの普及によって、既存の契約書を見直す必要が出てくるのです。

行政書士に求められるのは「権利の交通整理」

ここで行政書士が果たせる役割があります。

私はこれを、「権利の交通整理」と考えています。

たとえば、ある会社が自社のキャラクターを生成AIで活用したいと考えたとします。

しかし調べてみると、

キャラクターを描いたのは外部のイラストレーター。

名前を考えたのは広告会社。

動画を制作したのは別の制作会社。

声を担当したのは声優。

BGMはさらに別のクリエイター。

というケースもあります。

「会社のキャラクターだから、会社が自由に使えるだろう」

とは限りません。

まず必要なのは、

誰が、どの権利を持っているのかを整理すること

です。

そして契約書を確認し、

「AI利用まで認められているのか」

「二次利用は可能なのか」

「改変できるのか」

「海外利用できるのか」

などを整理します。

そのうえで必要なら、利用許諾契約や著作権に関する契約を整備する。

こうした仕事は、AIエンジニアではなく、著作権と契約を理解した専門職が必要になる分野です。

「著作権の棚卸し」という新しいサービス

そこで今後、中小企業向けに有望だと考えられるのが、

「著作権・IPの棚卸し」

というサービスです。

会社には意外なほど多くの著作物があります。

ホームページの文章、写真、動画、会社案内、パンフレット、ロゴ、イラスト、キャラクター、マニュアル、研修資料、広告、SNS投稿などです。

しかし、

「誰が作ったものなのか」

「契約書はあるのか」

「著作権は誰にあるのか」

「二次利用できるのか」

「AIに入力してよいのか」

まで整理されている中小企業は、それほど多くないでしょう。

そこで行政書士がヒアリングを行い、

「会社にどんな知的財産があるのか」

「契約関係はどうなっているのか」

「AI利用する場合に何を確認すべきか」

を整理する。

これは従来の「契約書を一通作成する」という仕事から一歩進んだサービスになります。

行政書士は「AIを使ってよい範囲」を契約に落とし込む

今後、契約書にはAIに関する条項が増えていくと考えられます。

たとえば業務委託契約なら、

「業務上取得した情報を生成AIへ入力してよいのか」

という問題があります。

著作物の制作委託なら、

「AIを使って制作してよいのか」

という問題があります。

著作権の利用許諾契約なら、

「許諾した作品をAI学習やAI生成に利用してよいのか」

という問題があります。

つまりAI時代の契約書では、

「AIを使うか、使わないか」だけではなく、
「どのAI利用を、どの条件で認めるのか」

という細かな設計が必要になります。

ここは行政書士の得意分野です。

AI時代には「小さなライセンス」が大量に生まれる

さらに注目したいのがライセンスビジネスです。

従来、キャラクターなどのライセンス契約は比較的大きな企業間取引が中心でした。

ところが生成AIによって状況が変わる可能性があります。

たとえば、

「このキャラクターを使ったAI画像を10枚作りたい」

「SNS投稿用の動画だけ作りたい」

「地域イベントで一か月だけ使いたい」

「個人クリエイターが二次創作を販売したい」

といった、小規模な利用が大量に発生する可能性があります。

一件あたりの利用料は小さくても、世界中から大量に利用されれば大きな市場になります。

これは、「少額・大量ライセンス市場」と呼べるかもしれません。

この市場が拡大すると、「許諾条件を標準化する」という仕事も重要になります。

「利用許諾契約のひな型」を作る仕事も増える

毎回ゼロから契約書を作っていては、大量のAI利用には対応できません。

そこで必要になるのが、

「この条件なら利用OK」

という標準的なライセンス条件です。

たとえば、

個人利用プラン。

SNS利用プラン。

商用利用プラン。

AI生成利用プラン。

海外利用プラン。

といった具合です。

利用目的ごとに条件を整理し、ライセンス契約のひな型を作る。

さらに、

「禁止事項」
「改変可能範囲」
「利用期間」
「利用地域」
「クレジット表示」
「再許諾」
「生成物の取扱い」

などを明確にする。

こうした契約設計も、行政書士の業務領域です。

中小企業にも「眠っているIP」がある

「IPビジネス」というと、漫画出版社やゲーム会社の話だと思うかもしれません。

しかし、中小企業にも知的財産はあります。

たとえば地方の菓子店に、長年親しまれているキャラクターがいるかもしれません。

老舗企業には、昔の広告ポスターや商品パッケージが残っているかもしれません。

地域の観光協会には、写真や動画が大量に蓄積されているかもしれません。

これらはAI時代には「デジタル資産」になる可能性があります。

しかし権利関係が整理されていなければ、活用したくても活用できません。

「昔の広告だから自由に使えると思っていたが、誰が描いたのかわからない」

「写真は大量にあるが、撮影者との契約書がない」

ということも起こります。

ここでも、まず必要なのは権利の棚卸しです。

行政書士は「守る専門家」から「活かす専門家」へ

これからの著作権法務では、

「これは著作権侵害になる可能性があります」

と指摘するだけでは、十分ではないかもしれません。

企業が本当に知りたいのは、

「では、どうすれば使えるのですか?」

ということだからです。

そこで、

「この条件なら利用できます」

「この人から許諾を取れば利用できます」

「この契約を結べば事業化できます」

と提案する。

つまり、

「できない理由を説明する法務」から「できる方法を一緒に考える法務」へ。

AI時代には、この姿勢がますます重要になるでしょう。

行政書士とAIは競争相手ではない

生成AIが契約書を作れるようになると、

「行政書士の契約書作成業務はAIに奪われるのではないか」

という見方もあります。

しかし私は、必ずしもそうは思いません。

AIは文章を作ることは得意です。

しかし、その会社にどんな著作物があり、誰が作り、どんな契約を結び、経営者が今後どのように活用したいのかを聞き出す仕事は、人との対話が欠かせません。

必要なのは、

「書類を書く力」より、「何を契約すべきかを見つける力」

です。

依頼者の話を聞く。

問題を整理する。

権利関係を確認する。

選択肢をわかりやすく説明する。

そして、その結果を契約書という形にする。

AIは、この仕事を奪う存在というより、行政書士の仕事を効率化する道具になる可能性があります。

「著作権×AI×契約」は行政書士の新しい専門分野になる

行政書士にはさまざまな専門分野があります。

許認可、外国人関連、相続、遺言、法人支援、契約書などです。

そこに今後、

「著作権×AI×契約」

という新しい専門分野が生まれても不思議ではありません。

特に対象となるのは、

クリエイター、デザイン会社、広告会社、出版社、動画制作会社、Web制作会社、ゲーム会社、地域コンテンツ事業者、キャラクターを保有する中小企業などでしょう。

こうした事業者に、

「御社のコンテンツをAI時代にどう守り、どう活かしますか?」

と問いかける。

そこから、

著作権の棚卸し、既存契約の確認、AI利用ルールの整備、利用許諾契約、業務委託契約、ライセンス条件の整備へつなげていく。

これは十分に新しい法務サービスになり得ます。

ただし、行政書士ができることには境界がある

ここは大切な点です。

AIや著作権という新しい市場だからといって、行政書士があらゆる法律問題を扱えるわけではありません。

契約書や権利関係書類の作成など行政書士が担える業務と、著作権侵害をめぐって当事者間に争いが生じた場合など、弁護士に相談すべき領域は区別する必要があります。

また、特許・商標などについては弁理士との連携が必要になる場面もあります。

だからこそ、

「何でも自分で解決する専門職」ではなく、「適切な専門職につなげられる法務の窓口」

という役割にも価値があります。

AI時代は問題が複雑になるからこそ、専門家同士の連携が重要になるでしょう。

AI時代に価値が上がるのは「契約を書く人」ではなく「権利を設計できる人」

生成AIによって、文章、画像、動画、音楽、キャラクターなどの利用方法は急速に広がっています。

それに伴って、著作権ビジネスも変わります。

これまでは、

「作品を作る」
  ↓
「販売する」
  ↓
「著作権を守る」

という流れが中心でした。

これからは、

「作品を作る」
  ↓
「権利を整理する」
  ↓
「利用条件を決める」
  ↓
「AIを含むさまざまな利用者へライセンスする」
  ↓
「利用料を受け取る」
  ↓
「次の創作へ投資する」

という循環が重要になるでしょう。

その入口にあるのが、

「誰が、どの権利を持っているのか」

を整理することです。

そして次に、

「誰に、何を、どこまで、どの条件で使わせるのか」

を契約に落とし込む。

ここには、行政書士が培ってきた「契約書」「権利義務に関する書類」「事業者へのヒアリング」という仕事との接点があります。

AI時代だからこそ、人間にしかできない仕事もあります。

依頼者の話を丁寧に聞き、その人や会社が持っている「価値」に気づき、その価値を守りながらビジネスとして活用できる形に整えることです。

AI時代の行政書士は、単に「契約書を作る人」ではなく、

「企業やクリエイターが持つ知的財産を、守りながら活かす法務パートナー」

になれるのではないでしょうか。

そして「著作権×契約×AI」は、そのための新しい市場になっていくと考えています。