◎「レコード演奏・伝達権」とは?

「レコード演奏・伝達権」とは?店舗BGMへの影響と事業者が知っておくべきポイント

お店で音楽を流すことにも、新しいルールが生まれます

2026年6月17日、第221回特別国会において「著作権法の一部を改正する法律」が成立しました。同年6月24日には、令和8年法律第48号として公布されています。

今回の改正で特に注目されるのが、「レコード演奏・伝達権」の創設です。

「レコード」という言葉から、昔のアナログレコードを思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、著作権法でいうレコードには、CDや音楽配信の音源なども含まれます。

今回の改正は、飲食店や美容室、小売店、商業施設などで音楽をBGMとして利用している事業者にとって、決して無関係ではありません。

これまで、店舗で音楽を流す場合、主に作詞家や作曲家などの著作権について使用料の支払いが問題となっていました。

しかし、新しい制度では、歌手や演奏家、レコード会社などにも、一定の場合に二次使用料を支払う仕組みが導入されます。

なぜ、このような制度が必要になったのでしょうか。

また、すでにJASRACなどに使用料を支払っているお店は、さらに別の料金を支払わなければならないのでしょうか。

今回は、2026年の著作権法改正の背景と内容、店舗BGMへの影響、事業者が準備しておくべきポイントについて、できるだけわかりやすく解説します。

1.「レコード演奏・伝達権」とは何か?

まず、今回の改正で創設された「レコード演奏・伝達権」の意味から説明しましょう。

簡単にいうと、市販のCDや配信音源などを店舗や施設で公に再生・伝達する場合に、歌手や演奏家、レコード製作者が二次使用料を受け取ることができる権利です。

例えば、次のような場面が考えられます。

  • カフェで市販のCDをBGMとして流す
  • 美容室で音楽配信サービスの楽曲を流す
  • 小売店で録音された音楽を店内に流す
  • 商業施設で配信された音楽を館内に流す

こうした利用のうち、法律で定められた条件に該当するものが対象になります。

ただし、すべての音楽利用に一律の料金が発生するわけではありません。利用方法や例外規定、今後定められる二次使用料規程などによって、具体的な取り扱いは異なります。

なお、今回の「権利」は、一般的な許諾を求める排他的な権利というより、法律上の要件を満たす利用について対価を受け取る二次使用料請求権として理解することが重要です。

2.著作権と著作隣接権の違いを知っていますか?

今回の改正を理解するうえで、ぜひ知っておきたいのが「著作権」と「著作隣接権」の違いです。

音楽には、さまざまな人が関わっています。

例えば、ある楽曲を考えてみましょう。

作詞家が歌詞を書き、作曲家がメロディーを作ります。そして歌手が歌い、演奏家が演奏し、レコード会社などが音源を製作します。

この場合、法律上の権利は大きく二つに分かれます。

著作権

歌詞やメロディーなど、音楽作品そのものを創作した人の権利です。主に作詞家や作曲家などが関係します。

著作隣接権

音楽を歌ったり演奏したりする実演家や、音源を製作するレコード製作者などの権利です。

これまでの日本では、店舗で市販のCDなどをBGMとして流す場合、楽曲の著作権については原則として使用料の支払いが必要でした。

一方、録音された音楽を店舗で再生する行為について、実演家やレコード製作者が二次使用料を受け取る一般的な仕組みは整備されていませんでした。

今回の改正は、この部分を補うものです。

つまり、音楽を「作った人」だけでなく、音楽を「歌い、演奏し、録音物として届けた人」にも適切な対価を還元するという考え方が背景にあります。

3.なぜ2026年に著作権法が改正されたのか?

実は、レコード演奏・伝達権に相当する制度は、海外では広く導入されてきました。

日本では、放送などで商業用レコードを利用する場合について、実演家やレコード製作者の二次使用料請求権が設けられていました。

しかし、店舗や施設で録音された音楽を公に再生する場合などについては、十分な制度が整備されていなかったのです。

この違いは、日本のアーティストが海外で活動する際にも影響していました。

例えば、日本のアーティストの音源が海外のレストランや店舗で利用された場合、その国に二次使用料の制度があっても、日本との制度上の違いや相互主義などの問題から、日本側の権利者が十分な対価を受け取れない場合がありました。

音楽が国境を越えて利用される時代に、こうした制度の違いは大きな課題となります。

特に近年は、インターネット配信やSNSなどを通じて、日本の音楽が世界中で親しまれるようになっています。

今回の法改正には、国内での適切な対価還元に加え、海外との権利管理の連携を進め、日本の音楽産業の国際展開を後押しする狙いがあります。

単なる使用料制度の追加ではなく、日本の音楽文化を持続的に発展させるための制度改革といえるでしょう。

4.店舗BGMはどう変わる?飲食店・美容室・小売店への影響

事業者にとって最も気になるのは、やはり費用負担の問題ではないでしょうか。

例えば、カフェの経営者が、すでにJASRACなどに音楽の使用料を支払っているとします。

この場合、改正法の施行後には、従来の著作権使用料とは別に、実演家やレコード製作者に対する二次使用料が問題となる可能性があります。

ここで大切なのは、二つの使用料が異なる権利に基づいているという点です。

区分 従来の音楽著作権 新設される制度
主な権利者 作詞家・作曲家など 歌手・演奏家・レコード製作者など
権利の種類 著作権 著作隣接権
対象 楽曲の利用 商業用レコード等の公の再生・伝達
対価 著作権使用料 二次使用料

したがって、JASRACなどへの支払いがあるからといって、新しい二次使用料についても当然に支払いが済んでいるとは限りません。

ただし、店舗ごとに必ず新しい請求書が届くと決まったわけでもありません。

業務用BGMサービスの提供事業者が包括的に権利処理を行う方法なども考えられます。

実際の費用負担や請求方法については、今後の制度運用や契約内容を確認する必要があります。

また、家庭向け音楽配信サービスを店舗で使用する場合には、今回の改正とは別に、サービスの利用規約上、商用利用が認められているかどうかにも注意が必要です。

5.二次使用料はいくらになる?徴収・分配の仕組み

「新しい制度ができることはわかったけれど、結局いくら支払うのか?」

これは、多くの事業者が知りたいところでしょう。

しかし、2026年10月時点では、個々の店舗が支払う二次使用料の具体的な金額を、一律に示すことはできません。

今回の改正では、権利を適切かつ効率的に管理するため、文化庁長官が指定する団体による権利行使の仕組みが設けられています。

指定団体が存在する場合には、原則として、その団体を通じて二次使用料請求権が行使されます。

指定団体は、二次使用料の額に関する事項などを定めた「二次使用料規程」を作成します。

その際、利用者や利用者団体の意見を聴くよう努めることが求められ、規程案の公示や利用者代表との協議などの手続きも設けられています。

協議がまとまらない場合には、文化庁長官による裁定の仕組みも用意されています。

つまり、権利者側だけで一方的に金額を決めるのではなく、利用者側との調整を行う制度設計になっています。

特に小規模事業者にとっては、負担がどの程度になるのかが重要です。

今後は、指定団体の公表する情報や、文化庁の案内を継続的に確認する必要があります。

6.すべてのお店が対象?例外となるケースは?

新しい制度ができたからといって、音楽を流すすべての行為が二次使用料の対象になるわけではありません。

改正法では、一定の例外も設けられています。

例えば、営利を目的とせず、かつ聴衆や観衆から料金を受けずに公に再生する場合などについては、二次使用料の支払義務が適用されない規定があります。

また、著作権法上の権利制限規定が適用される場合にも、一定の例外があります。

ただし、ここで注意したいのは、単に「入場料を取っていない」「BGMで利益を直接得ていない」というだけで、必ず対象外になるとは限らないことです。

例えば、飲食店や美容室は、音楽そのものに料金を設定していなくても、営業活動の一環として音楽を利用しています。

そのため、営利目的の判断や具体的な利用形態について、慎重に確認する必要があります。

また、著作権の問題と著作隣接権の問題は、別々に検討しなければなりません。

新しい二次使用料の対象外であっても、従来の音楽著作権に関する手続きが不要になるとは限らないのです。

7.改正著作権法はいつから施行される?

今回の改正法は、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。

しかし、成立した日から直ちに新しい二次使用料の支払義務が始まるわけではありません。

施行日は、公布日から3年を超えない範囲内で、政令によって定められる日とされています。

つまり、遅くとも2029年6月までの範囲で施行される仕組みですが、具体的な施行日は政令で確認する必要があります。

なぜ施行までに時間を設けているのでしょうか。

その理由の一つは、新しい権利管理制度を整備する必要があるためです。

実演家やレコード製作者に適切に対価を分配するためには、徴収の仕組み、利用者との協議、分配方法、事業者への周知など、さまざまな準備が必要になります。

事業者側にとっても、契約内容や費用負担を見直す時間が必要です。

施行までの期間は、制度を理解し、適切な対応を進めるための重要な準備期間と考えられます。

8.中小企業・個人事業主が今から準備すべき5つのこと

では、飲食店や美容室、小売店などの経営者は、今から何をしておけばよいのでしょうか。

① 店舗で使用している音楽を確認する

まずは、CD、音楽配信サービス、業務用BGMサービスなど、現在どのような方法で音楽を流しているのかを整理しましょう。

② 著作権の利用手続きを確認する

JASRACなどへの手続きが必要な利用について、適切に対応できているかを確認します。今回の法改正を機会に、従来の著作権管理についても見直すことが大切です。

③ BGMサービスの契約内容を確認する

業務用BGMサービスを利用している場合は、新制度への対応方針や料金体系について、サービス提供事業者からの案内を確認しましょう。

④ 文化庁や指定団体の情報を確認する

施行日、二次使用料規程、徴収方法など、今後公表される情報を定期的に確認することが重要です。

⑤ 必要に応じて専門家に相談する

複数店舗を運営している場合や、自社で音楽配信・イベント事業などを行っている場合には、契約関係が複雑になることがあります。

著作権や契約実務に詳しい専門家とともに、利用状況を整理しておくと安心です。

大切なのは、制度が始まってから慌てるのではなく、今のうちに自社の音楽利用を把握しておくことです。

9.今回の改正はアーティストにとって何を意味するのか?

今回の法改正は、店舗や企業に新たな対応を求める一方で、音楽を生み出す人たちにとって大きな意義があります。

音楽作品は、作詞家や作曲家だけで完成するものではありません。

歌手や演奏家の表現、録音や製作に関わる人々の努力があって、私たちは豊かな音楽を楽しむことができます。

しかし、これまでは店舗などで録音された音楽が利用されても、その利用に応じた対価が実演家やレコード製作者に十分還元されないという課題がありました。

今回の改正によって、そうした利用から生じる経済的価値を、音楽の担い手にも還元する仕組みが整備されます。

さらに、海外の権利管理団体との連携が進めば、日本のアーティストが海外で音楽を利用された際の対価還元にもつながる可能性があります。

もっとも、制度を作るだけで自動的にすべての課題が解決するわけではありません。

適切な徴収と分配、透明性のある管理、フリーランスの音楽家への配慮など、運用面での取り組みも欠かせません。

権利者の保護と利用者の負担のバランスをどのように取るかが、今後の重要な課題になるでしょう。

10.よくある質問(FAQ)

Q1.JASRACに使用料を払っていれば、新しい二次使用料は不要ですか?

必ずしもそうではありません。JASRACなどが管理する楽曲の著作権と、新設される実演家・レコード製作者の二次使用料請求権は異なるものです。具体的な支払方法は、今後の制度運用や契約内容を確認する必要があります。

Q2.SpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスを店舗で流してもよいですか?

今回の改正とは別に、各サービスの利用規約を確認する必要があります。個人向けプランでは、店舗での商用利用が認められていない場合があります。著作権上の手続きだけでなく、サービス契約上の条件にも注意しましょう。

Q3.個人経営の小さなカフェも対象になりますか?

店舗の規模だけで一律に対象外になるとはいえません。ただし、具体的な利用形態や法定の例外、今後定められる二次使用料規程などによって取り扱いが異なります。小規模事業者への配慮を含めた制度運用の動向を確認することが重要です。

Q4.生演奏にも新しい二次使用料がかかりますか?

今回の制度は、商業用レコードに録音された実演や音の公の再生・伝達を対象とするものです。録音物を使わない生演奏そのものとは区別して考える必要があります。ただし、生演奏についても楽曲の著作権など別の権利が問題となる場合があります。

Q5.いつから新しい料金を支払う必要がありますか?

改正法の成立日や公布日から、直ちに新しい二次使用料の支払義務が発生するわけではありません。施行日は政令で定められます。今後の公式発表を確認してください。

音楽を使う側も、作る側も大切にする制度へ

2026年6月17日に成立した改正著作権法によって、「レコード演奏・伝達権」という新しい制度が創設されました。

今回の改正のポイントは、次のとおりです。

  • 実演家やレコード製作者に対する二次使用料請求権が新設された
  • 店舗BGMなど、商業用レコードの公の再生・伝達が対象となる
  • 従来の楽曲の著作権使用料とは異なる仕組みである
  • 指定団体による徴収・分配と利用者側との協議の仕組みが設けられた
  • 施行日は公布から3年以内に政令で定められる

音楽は、店舗の雰囲気をつくり、お客様の気持ちを和ませ、日常生活を豊かにしてくれます。

その一方で、音楽が生まれ、私たちのもとに届くまでには、多くの人々の創造的な活動が存在しています。

今回の改正は、その価値を改めて考える機会でもあります。

事業者にとっては、新しい制度を単なる費用負担の増加として捉えるのではなく、音楽を適切に利用し、安心して事業を続けるためのルールとして理解することが大切です。

音楽を作る人、届ける人、利用する人。それぞれが納得できる仕組みを育てていくことが、これからの著作権制度に求められているのではないでしょうか。

著作権・音楽利用・契約に関するご相談

当事務所では、著作権に関するご相談や、企業・個人事業主の契約書確認などを通じて、事業活動をサポートしています。

店舗での音楽利用、著作権の取り扱い、契約条件の確認などでお困りの際は、お気軽にご相談ください。

※本記事は2026年10月時点の公表資料に基づく一般的な解説です。個別の利用については、施行日、二次使用料規程、利用契約、最新の法令・公表情報などを確認する必要があります。