生成AIの「学習」は著作権侵害になるのか?
生成AIと著作権をめぐる争いが、新たな局面を迎えています。
2026年8月28日、Sony Music Publishing、Warner Chappell Musicなど35の音楽出版社が、生成AI「Claude」を開発するAnthropic(アンソロピック)と、CEOのダリオ・アモデイ氏、共同創業者ベンジャミン・マン氏を米カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提訴しました。
原告側は、数千から数万規模の楽曲の歌詞や楽譜などが無断で取得・複製され、ClaudeのAI学習などに利用されたと主張しています。Anthropic側は出版社側の主張に同意せず、争う姿勢を示しています。
ここで注意したいのは、現時点ではあくまで「原告側の主張」であり、著作権侵害が裁判所によって確定したわけではないという点です。
問題は「AIが学習したこと」だけではない!
今回の訴訟を理解するうえで重要なのは、
「著作物をAIに学習させたら著作権侵害になるのか」
という一つの問題だけで考えないことです。
少なくとも、次の3段階に分けて考える必要があります。
第一は、学習データをどのように入手したのか。
第二は、入手した著作物をAIの学習に利用することが許されるのか。
第三は、学習後のAIがどのようなものを出力するのかです。
今回の訴訟では、このうち特に「入口」、つまり学習データの取得方法が大きな争点となっています。
出版社側は、Anthropic側が海賊版サイトから大量の書籍等を取得し、その中に含まれていた歌詞や楽譜を利用したほか、歌詞提供サイトなどからもコンテンツを取得したと主張しています。
米国著作権法第106条は、著作権者に著作物を複製する排他的権利などを認めています。したがって、著作物を無断でコピーすれば、原則として複製権侵害の問題が生じます。
「フェアユースならAI学習は自由」ではない
もっとも、米国著作権法には日本法とは異なる「フェアユース(fair use)」という制度があります。
米国著作権法第107条では、
・利用の目的・性質
・著作物の性質
・利用された部分の量・重要性
・著作物の潜在的市場への影響
などを総合的に考慮して、著作物の利用がフェアユースに該当するかを判断します。
実はAnthropicをめぐっては、2025年6月の「Bartz v. Anthropic」事件ですでに重要な判断が示されています。
同事件でカリフォルニア州北部地区連邦地裁は、著作物をLLMの訓練に利用する行為について、非常に強い変容性があるとしてフェアユースを認めました。
しかし一方で、海賊版サイトから取得した大量の書籍を「中央ライブラリー」として保有する行為については、フェアユースとして当然に正当化されるものではないと判断しました。
つまり、
「AI学習がフェアユースになり得ること」と、「海賊版を入手することが許されること」は別問題
なのです。
今回の音楽出版社による訴訟でも、この区別が非常に重要になると考えられます。
最大15万ドルという損害賠償の根拠
報道では「著作物1点につき最大15万ドル」の損害賠償が求められているとされています。
この金額には明確な法的根拠があります。
米国著作権法第504条第C項では、著作権侵害について法定損害賠償を請求する制度があり、故意(willful)の侵害と認定された場合には、1著作物につき最大15万ドルまで増額することができます。
さらに今回、出版社側は、著作権管理情報(Copyright Management Information)の除去・改変についても主張しています。
米国著作権法第1202条は、一定の要件のもとで著作権管理情報を故意に除去・改変する行為などを禁止しています。そして第1203条第C項では、違反1件につき2,500ドル以上2万5,000ドル以下の法定損害賠償が定められています。
対象作品が数千、数万という規模になれば、理論上の請求額が極めて大きくなる理由がここにあります。
日本企業も「AIに入力して大丈夫か」を考える時代へ
今回の訴訟は米国での事件ですが、日本企業にとっても他人事ではありません。
企業が生成AIを利用する際には、「生成された文章に問題がないか」だけを見るのでは不十分です。
たとえば、社内にある書籍、記事、写真、楽譜、データベース、取引先から提供された資料などをAIに読み込ませる場合、その資料を利用する権限があるのかを確認する必要があります。
日本では著作権法30条の4が、情報解析など一定の場合に著作物を著作権者の許諾なく利用できる旨を定めています。
しかし、同条はあらゆるAI学習を無条件で認める規定ではありません。「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」などは対象外となります。
また、違法にアップロードされた著作物を取得する問題と、取得後にAI学習へ利用する問題は、やはり分けて検討する必要があります。
AI時代に重要になるのは「データの出所」
これから企業のAI活用で重要になるキーワードの一つが、データ・プロヴェナンス(data provenance=データの来歴・出所)です。
「AIが何を学習したか」だけではなく、
「そのデータはどこから来たのか」
「誰が権利を持っているのか」
「利用許諾はあるのか」
「どのような条件で取得したのか」
を記録・管理することが、企業のリスク管理として重要になっていくでしょう。
今回のAnthropic訴訟が示しているのは、「AIだから特別」という話ではありません。
むしろ、著作権の基本である『誰の著作物を、どこから入手し、どのような権限で利用しているのか』を確認することの重要性が、AI時代になって改めて問われているのです。
AIを安心して活用するためにも、企業は技術導入と同時に「著作権」と「データの出所」を管理する仕組みを整えておく必要があります。
根拠法令・判例・出典
米国著作権法
- 米国著作権法第106条(著作権者の排他的権利・複製権等)
- 米国著作権法第107条(Fair Use)
- 米国著作権法第504条第C項(法定損害賠償。故意侵害の場合、1著作物につき最大15万ドル)
- 米国著作権法第1202条(著作権管理情報の除去・改変等)
- 米国著作権法第1203条第C項(第1202条等の違反に対する民事上の損害賠償)
日本法
- 著作権法第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
関連判例
- Bartz v. Anthropic PBC, 787 F. Supp. 3d 1007 (N.D. Cal. 2025)
主な出典
- 朝日新聞「ソニーグループ傘下の音楽出版社など35社、Anthropicを著作権侵害で提訴」関連記事
- Reuters, “Sony, Warner Music sue Anthropic over songs used in AI training”, Aug. 31, 2026
- ITmedia NEWS「ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペル、Anthropicを著作権侵害で提訴」2026年8月31日
- U.S. Copyright Office, “Copyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training”, May 2025
※本稿は2026年9月2日時点の公表資料・報道をもとにした一般的な解説であり、個別案件についての法律相談・法的助言を目的とするものではありません。
