◎串カツ田中に学ぶ「不安経営」と「リブランディング」

UX改善は成功している時こそ始める

2026年9月25日放送のテレビ東京『ガイアの夜明け』で、串カツ田中のリブランディングへの挑戦が紹介されていました。

興味深かったのは、業績が悪くなったから改革を始めたのではない、という点です。

むしろ串カツ田中は、売上が過去最高という好調な状況にありながら、「脱・串カツ田中」を掲げました。

なぜ、うまくいっている会社が変わろうとするのでしょうか。

そこには、創業者・貫啓二氏の「不安経営」という考え方があります。

今回は串カツ田中の取り組みから、

「不安経営」
「リブランディング」
「UX(顧客体験)改善」

という3つの視点で、中小企業経営にも共通する「変わること」の意味を考えてみたいと思います。

「不安経営」とは、悲観的になることではない

「不安経営」という言葉だけを見ると、少しネガティブな印象があります。

しかし、番組を見て感じたのは、ここでいう「不安」は単なる心配ではないということです。

「今はうまくいっている。しかし、このままで5年後、10年後も大丈夫なのだろうか」

そんな問いを持ち続ける経営です。

企業にとって、成功体験は大きな財産です。

一方で、成功体験が強ければ強いほど、

「今までこれで成功してきた」
「お客様にも支持されている」
「変える必要はない」

という考えに陥りやすくなります。

ところが、市場も顧客も社会も変化します。

昨日までの「正解」が、明日も正解である保証はありません。

だからこそ、経営者に必要なのは、不安を消すことではなく、不安を未来へのセンサーとして利用することなのだと思います。

串カツ田中が「大衆酒場」を変えた理由

串カツ田中といえば、赤提灯、丸椅子、にぎやかな店内。

そうした「大衆酒場らしさ」そのものが、ブランドの魅力でした。

ところが、その魅力が別の顧客から見ると「入りづらさ」になることがあります。

番組では、これまで利用したことのない女性客などから「入りづらい」という声があることが紹介されていました。

ここが、リブランディングを考えるうえで非常に重要です。

企業側が考える「自社らしさ」と、お客様が感じる「利用しやすさ」は、必ずしも一致しません。

長年大切にしてきたブランドイメージであっても、それが新しい顧客との間に壁を作っている可能性があります。

リブランディングは「ロゴを変えること」ではない

リブランディングというと、

ロゴを変える。
ホームページを作り直す。
店舗をきれいにする。
キャッチコピーを変更する。

といった「見た目の変更」を想像しがちです。

しかし、本来のリブランディングはもっと深いものです。

串カツ田中は、新しいブランドステートメントとして「今日も、田中で。」を掲げ、ロゴや店舗デザインだけでなく、商品や価格、店舗での体験そのものを見直しています。

つまり、

「私たちは誰に、どんな価値を提供する会社なのか」

を改めて定義し直しているのです。

これは大企業だけの話ではありません。

中小企業や士業事務所でも、

「昔からこうしているから」
「この業界ではこれが普通だから」

という理由で続けているものは少なくありません。

その「当たり前」を一度疑ってみることが、リブランディングの第一歩になります。

UX改善とは「お客様の立場から会社を見ること」

もう一つ注目したいのが「UX」です。

UXとは「User Experience(ユーザー・エクスペリエンス)」、つまり利用者が商品やサービスを通じて経験する「顧客体験」のことです。

飲食店で考えれば、料理がおいしいかどうかだけではありません。

店を見つける。
外観を見る。
入店する。
席に座る。
メニューを見る。
注文する。
食事を楽しむ。
会計する。
店を出る。

この一連の体験すべてがUXです。

串カツがおいしくても、初めての人が「入りづらい」と感じて店の前を通り過ぎてしまえば、商品を体験してもらうことすらできません。

そこで「女性でも入りやすい店舗にする」という発想が出てきます。

これは単なる店舗改装ではありません。

顧客が感じている心理的な障壁を取り除くUX改善と見ることができます。

UX改善は「売る側の常識」を疑うところから始まる

この考え方は、士業や中小企業にもそのまま当てはまります。

例えば行政書士事務所なら、

「相談したいけれど、こんなことを聞いていいのだろうか」

「料金がいくらになるのかわからない」

「専門用語ばかりで難しそうだ」

「問い合わせをしたら契約しなければならないのではないか」

といった不安を、相談者が感じているかもしれません。

事務所側にとっては当たり前のことでも、お客様にとっては当たり前ではありません。

これは飲食店の「入りづらい」と、本質的には同じ問題です。

だからUX改善では、

「何を提供するか」

だけでなく、

「お客様は、どこで不安を感じているのか」

を見る必要があります。

「不安経営」と「UX改善」は実はつながっている

ここまで考えると、

不安経営
↓
リブランディング
↓
UX改善

という流れが見えてきます。

まず経営者自身が、

「今のままで本当にいいのか?」

という健全な不安を持つ。

次に、

「これから誰に、どのような価値を提供する会社になるのか」

を考え直す。

そして最後に、

「お客様から見たとき、利用しにくいところはないか」

を一つずつ改善する。

つまり、不安経営とは単に危機感を持つことではありません。

不安を起点として、自社を顧客の視点から見直し、未来に向けて変化する経営なのだと思います。

成功している時こそ変わる

串カツ田中の事例でもっとも印象に残ったのは、「業績が悪いから変わる」のではないことでした。

経営が苦しくなってから改革を始めれば、時間も資金も選択肢も限られてしまいます。

反対に、業績が良いときなら、試す余裕があります。

小さく始めることもできます。
失敗から学ぶこともできます。
次の一手を考える時間もあります。

だから、

「まだ大丈夫」は、変わらなくてよい理由ではなく、変わることができる時期なのかもしれません。

これは中小企業にとって、とても重要な視点ではないでしょうか。

リブランディングは「捨てること」ではなく「残すものを決めること」

もちろん、これまで築いてきたものを全部変えればいいわけではありません。

串カツ田中にも、串カツ、楽しさ、価格の魅力など、残すべき価値があります。

大切なのは、

「何を変えるか」

と同時に、

「何を絶対に変えないのか」

を決めることです。

これがブランドの核になります。

会社の歴史、創業者の思い、お客様との関係、社員が大切にしてきた価値。

それらを残しながら、時代に合わなくなった部分だけを変えていく。

私は、それこそが本当のリブランディングではないかと思います。

中小企業が今日からできる「小さなUX改善」

大規模な店舗改装をしなくても、UX改善はできます。

例えば、

・ホームページを初めて見る人の目線で読み直す
・問い合わせ方法をわかりやすくする
・料金体系をできるだけ明確にする
・専門用語を一般的な言葉に置き換える
・既存のお客様に「利用しにくかったところ」を聞いてみる
・問い合わせから契約までの流れを書き出してみる

こうした小さな改善も立派なUX改善です。

特に重要なのは、お客様に「聞く」ことです。

経営者が頭の中だけで考えている「顧客像」と、本当のお客様が感じていることには、意外な違いがあります。

そこに次の成長のヒントがあります。

「不安」は経営を前に進める力になる

『ガイアの夜明け』で紹介された串カツ田中の挑戦から見えてくるのは、

リブランディングとは単なるイメージ刷新ではない、

ということです。

「今のままでいいのか」という不安を持つ。

お客様の声を聞く。

自社の強みと弱みを見直す。

残すものと変えるものを決める。

そして、顧客体験を少しずつ改善する。

この繰り返しが、会社を次の時代へつないでいくのだと思います。

経営における「不安」は、必ずしも悪いものではありません。

むしろ、本当に怖いのは、不安がなくなることなのかもしれません。

「今はうまくいっている。でも、このままでいいのだろうか」

その小さな違和感こそ、次の成長への入口です。

串カツ田中の「不安経営」は、変化の激しい時代を生きる中小企業にとっても、大きなヒントを与えてくれているように思います。

参考 テレビ東京『ガイアの夜明け』 2026年9月25日放送「”脱・串カツ田中”で勝つ!」