中小企業が確認したい10のチェックポイント
「うちの会社はAIなんて使っていないから関係ない」
そう思っている経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか。
会社自身が生成AIを導入していなくても、ホームページを制作するWeb会社、広告を作るデザイナー、記事を書くライター、動画制作会社などが、すでに生成AIを業務に使っている可能性があります。
つまり、生成AIの問題は、
「自社がAIを使っているか」だけではなく、「取引先や外注先がAIを使っているか」
まで考える必要があります。
そこで一度確認してみたいのが「業務委託契約書」です。
今回は、中小企業が生成AI時代の業務委託契約書を見直す際に確認しておきたいポイントを、10項目にまとめます。
チェック1 そもそも生成AIを使ってよいのか
最初に確認したいのは、
「委託した仕事に生成AIを利用してよいのか」
という基本的なルールです。
たとえば会社がライターへ記事作成を依頼したとします。
ライターがChatGPTなどを使って構成案を考えることは認める。
しかし、AIが作った文章をほぼそのまま納品することは認めない。
こうしたルールも考えられます。
反対に、仕事の性質によってはAIを積極的に活用してもらったほうが、納期短縮やコスト削減につながるかもしれません。
重要なのは、
「AI利用=禁止」
と考えることではありません。
どこまでAIを使ってよいのかを、発注者と受注者の間で確認しておくこと
です。
チェック2 会社の機密情報をAIへ入力してよいのか
生成AIの業務利用で、企業が特に注意したいのが機密情報です。
業務委託では、外注先へさまざまな情報を渡します。
たとえば、
未公開の商品情報。
顧客に関する情報。
営業資料。
社内マニュアル。
会議資料。
契約内容。
技術情報。
などです。
外注先が仕事を効率化するために、それらを外部の生成AIサービスへ入力する可能性も考えられます。
そこで、
「委託業務で知った機密情報を生成AIへ入力してよいのか」
を検討する必要があります。
全面的に禁止する方法もありますし、利用するサービスや設定、情報の加工方法などについて条件を決める方法もあります。
従来の秘密保持条項だけで十分なのか、一度確認してみる価値があります。
チェック3 個人情報をAIへ入力していないか
機密情報とともに注意したいのが個人情報です。
たとえば、
顧客名簿。
問い合わせ内容。
採用応募者の情報。
従業員に関する資料。
アンケート結果。
などを生成AIへ入力する場合には、個人情報の取扱いについても検討が必要になります。
特に外注先に、本人が第三者提供を同意している個人情報を提供している場合、
「その情報がどのようなツールで処理される可能性があるのか」
まで確認することが重要になってきます。
「外注先に渡した後は任せている」ではなく、委託先でのAI利用についてもルールを決める。
生成AI時代には、委託先管理にも新しい視点が必要です。
チェック4 会社が渡した著作物をAIに利用してよいのか
たとえば会社がWeb制作会社へ、
商品写真。
会社案内。
イラスト。
過去の記事。
キャラクター。
動画。
などを渡したとします。
これらを制作作業のために利用することは認めていても、
「生成AIに入力することまで認めているのか」
は別の問題として考えたほうがよい場合があります。
特に、第三者から利用許諾を受けている著作物には注意が必要です。
「会社が持っているデータだから自由にAIへ入力できる」とは限りません。
誰が権利を持っているのか。
会社はどこまで利用を認められているのか。
AIへの利用まで含まれているのか。
こうした「権利の棚卸し」が重要になります。
チェック5 AIで作られた成果物を自由に使えるのか
外注先から納品された画像や文章に生成AIが使われていた場合、
「納品されたのだから自由に使える」
と思ってしまうかもしれません。
しかし生成AIが関係する成果物については、
著作権がどうなるのかという問題と、契約上どのように利用できるのかという問題を分けて考える
ことが重要です。
会社として必要なのは、
広告に使えるのか。
ホームページに掲載できるのか。
SNSで使えるのか。
加工できるのか。
別の商品にも利用できるのか。
海外でも利用できるのか。
など、実際のビジネスで必要な利用範囲を確保することです。
「著作権はどうなるのだろう?」だけで止まらず、
「会社として何に使いたいのか」
から契約を考えることがポイントです。
チェック6 第三者の著作権・商標などを侵害していないか
生成AIで作られた画像などが、既存の作品やキャラクターなどと似てしまう可能性も考えなければなりません。
たとえば納品された広告画像について、後から第三者から権利侵害を指摘された場合、
誰が確認するのか。
誰が対応するのか。
修正・差し替えをどうするのか。
その費用を誰が負担するのか。
といった問題が出てきます。
契約書では、
「問題が起きたときの責任」だけでなく、「問題を防ぐために誰が何を確認するのか」
まで考えておくとよいでしょう。
チェック7 AIを利用した場合に報告してもらうのか
外注先が生成AIを使った場合、
「必ず報告してください」
とするのか、
「補助的な利用なら報告不要」
とするのか。
これも会社によって考え方が違います。
たとえば、
アイデア出しだけなら報告不要。
文章生成に使った場合は報告。
画像生成を使った場合は報告。
最終成果物の重要部分に使った場合だけ報告。
など、段階を分ける方法もあります。
重要なのは、
「AIを使ったかどうか」だけでなく、「どの程度使ったのか」
を見ることです。
チェック8 人間による最終確認が行われているか
生成AIには間違いがあります。
もっともらしい文章でも、事実が間違っている場合があります。
画像でも不自然な表現や、意図しない内容が含まれることがあります。
そこで業務委託契約では、
「AI生成物をそのまま納品しない」
という考え方も重要になります。
たとえば、
事実確認をする。
文章を読み直す。
第三者の権利との関係を確認する。
不適切な表現がないか確認する。
最終的に人間が品質を確認する。
といったルールです。
AIを使わせないことより、
「AIを使った後、人間が何をするのか」
を決めるほうが現実的な場合もあります。
チェック9 外注先がさらに別の会社へ再委託する場合はどうするか
見落とされやすいのが「再委託」です。
会社Aが制作会社Bへ仕事を委託した。
ところがB社が一部の仕事をフリーランスCへ再委託した。
さらにCさんが生成AIを使っていた。
このようなこともあり得ます。
発注した会社から見ると、
「知らないところで自社の情報がAIへ入力されていた」
という状況になりかねません。
そこで、
再委託を認めるのか。
事前承諾が必要なのか。
再委託先にも同じAI利用ルールを守らせるのか。
などを確認しておくことが重要です。
AI時代には、
「自分の取引相手だけでなく、その先に誰がいるのか」
という視点も必要になります。
チェック10 契約終了後のデータをどうするのか
最後に確認したいのが、契約終了後です。
仕事が終わった後も、
外注先のパソコン。
クラウドストレージ。
業務システム。
AI関連サービス。
などに会社のデータが残っている可能性があります。
そこで、
契約終了時にデータを削除するのか。
一定期間保存するのか。
バックアップはどうするのか。
AI関連の環境に残ったデータをどう扱うのか。
などについて、取引内容に応じて確認する必要があります。
契約書は「仕事を始めるための書類」ですが、
「仕事が終わった後を決める書類」
でもあります。
10項目をまとめてチェックしてみましょう
自社の業務委託契約書を手元に置いて、次の10項目を確認してみてください。
□ 1.生成AIを業務に利用できる範囲が決まっている
□ 2.機密情報の生成AIへの入力についてルールがある
□ 3.個人情報の生成AIでの取扱いについて確認している
□ 4.会社から提供した著作物をAIに利用できる範囲が明確になっている
□ 5.AI生成物を会社がどこまで利用できるか決まっている
□ 6.第三者の権利に関する確認・対応方法が決まっている
□ 7.AIを利用した場合の報告ルールがある
□ 8.成果物について人間による最終確認が行われる
□ 9.再委託先にもAI利用ルールが適用される
□ 10.契約終了後のデータの取扱いが決まっている
いくつチェックが入ったでしょうか。
チェックが少ないからといって、現在の契約書が直ちに問題だという意味ではありません。
業種、仕事内容、扱う情報、成果物などによって必要な条項は異なるからです。
しかし、
「生成AIが使われる可能性を考えたことがなかった」
という場合には、一度契約内容を見直してみるきっかけにはなるでしょう。
「AI禁止」の一文を追加すれば解決するのか
ここで注意したいことがあります。
生成AIが心配だからといって、
「受託者は生成AIを使用してはならない」
という一文だけを追加すれば、すべて解決するわけではありません。
たとえば文章の校正やアイデア整理まで禁止する必要があるのか。
安全性に配慮した企業向けAIの利用も禁止するのか。
取引先がすでに業務の一部でAIを使っている場合はどうするのか。
こうした問題があります。
大切なのは、
「AIを禁止する契約」ではなく、「AIをどう使うかを決める契約」
です。
道路から自動車をなくせば交通事故は起こりません。
しかし、それでは社会は不便になります。
必要なのは、自動車を禁止することではなく、信号や速度制限などの交通ルールを整えることです。
生成AIについても同じではないでしょうか。
契約書のひな型をそのまま使い続けるリスク
中小企業では、一度作った業務委託契約書を何年も使っているケースがあります。
もちろん、ひな型を使うこと自体が悪いわけではありません。
問題は、
「ビジネスが変わっているのに契約書だけが昔のまま」
という状態です。
生成AIは、その典型例です。
数年前には想定していなかった使い方が、現在では日常業務になっています。
契約書も事業環境に合わせて見直す必要があります。
私は契約書を、
「会社のルールを映す鏡」
だと考えています。
会社の仕事のやり方が変わったなら、契約書も変わって当然なのです。
行政書士に相談するときは「契約書を作ってください」だけではもったいない
契約書について専門職へ相談するとき、
「業務委託契約書を作ってください」
だけで終わらせるのは、少しもったいないと思います。
むしろ、
「こんな仕事を外注していますが…。」
「外注先へこんな情報を提供していますが…。」
「成果物はこういう使いますが…。」
「生成AIを使う可能性がありますが…。」
「ここまでならAI利用を認めたいと思いますが…。」
といった話から始めることが大切です。
つまり、
契約書の前に「業務の棚卸し」をする。
そこから必要なルールを考え、最後に契約書という形に落とし込むのです。
AI時代に専門職へ依頼するのは、単に文章を作ることではなく、
「会社の現状を説明し、リスクと希望を整理して、ルールの設計を依頼すること」
だと私は考えています。
AI時代だからこそ「現状に沿った契約実務」が重要になる
生成AIを使うことは、中小企業にとって大きな可能性があります。
文章作成。
アイデア出し。
資料作成。
デザイン。
情報整理。
さまざまな業務を効率化できるからです。
だからこそ、
「怖いから使わない」
でも、
「便利だから何でも使う」
でもなく、
「安心して使うためのルールを作る」
ことが重要になります。
そのルールを発注者と受注者の間で確認するものの一つが、契約書です。
まずは、現在使っている業務委託契約書を机の上に出してみてください。
そして、
「この契約書を作ったとき、生成AIの利用を想定していただろうか?」
と考えてみる。
それが、生成AI時代の契約書見直しの第一歩です。
生成AI時代の契約書チェックについて
当事務所では、契約書を単に「作成する書類」としてではなく、事業者の方が安心して取引を行うためのルールとして考えています。
特に、業務委託契約、著作権、コンテンツ利用、生成AIなどが関係する取引では、「AIを禁止するかどうか」だけではなく、実際の業務内容を確認したうえで利用範囲を整理することが重要です。
「昔作った業務委託契約書をそのまま使っている」
「外注先が生成AIを使っているかもしれない」
「自社の画像や文章をAIに使ってよいのかわからない」
「AIに対応した契約書へ見直したい」
このような場合は、現在の契約書と実際の業務内容を一緒に確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
法律とデジタル技術の両面から、会社と地域の身近な法務をわかりやすく整理する。
それが「あなたの会社と地域の法務コンシェルジュ」として、私がお手伝いしたいことです。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件についての法的判断を示すものではありません。契約内容や具体的な紛争等については、事案に応じて弁護士その他の適切な専門職への相談が必要となる場合があります。
