KADOKAWAのフリーランス法違反に見る、フリーランス保護の実効性と行政書士の役割
2026年6月、公正取引委員会は出版大手のKADOKAWAに対し、フリーランス法違反として再発防止を求める勧告を行いました。
報道によると、同社は雑誌制作に関わるライターやイラストレーター、スタイリストなど113人のフリーランスに対し、報酬額や支払期日などの取引条件を適切に書面や電子データで明示せず、口頭発注が常態化していたとされています。さらに、報酬の支払いについても法令で定められたルールに沿っていなかったことが問題視されました。
このニュースは単なる一企業の法令違反ではありません。
私はここに、「フリーランス保護の実効性」という重要なテーマが隠されていると考えています。
フリーランス法はなぜ生まれたのか
正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、2024年11月に施行されました。
背景には、
- 契約書がない
- 発注内容が曖昧
- 報酬額が後から決まる
- 支払いが遅れる
- 一方的な値下げを受ける
といった問題が長年放置されてきたことがあります。
特にクリエイター、ライター、デザイナー、カメラマンなどは、大企業との力関係の差から不利益を受けやすい立場にありました。
そこで国は、「最低限の取引ルールを明確にする」ことを目的として、フリーランス法を制定したのです。
なぜ違反が後を絶たないのか
しかし、法施行から約1年半が経過した現在でも違反事例は続いています。
KADOKAWAだけではありません。
公正取引委員会は2025年度に実施した大規模調査で、1,626件の調査対象のうち10件を勧告、1,542件を指導しています。
この数字を見ると、
「法律があるのに、なぜこれほど違反が多いのか」
という疑問が湧きます。
理由は主に3つあると考えられます。
① 業界慣行が残っている
出版業界やクリエイティブ業界では、
「まず頼んで、金額は後で決める」
という昔ながらの慣行が少なくありません。
しかし、法律は慣行より優先されます。
長年続いていたやり方であっても、法令違反になる時代になったのです。
② 発注側の理解不足
中小企業では、
「契約書を作るほどの案件ではない」
「メールで十分だろう」
という認識が今も存在します。
ところがフリーランス法では、報酬額や支払期日などを直ちに明示する義務があります。
悪意ではなく知識不足による違反も少なくありません。
③ フリーランス側が声を上げにくい
最も根深い問題はここでしょう。
仕事を失うことを恐れ、「おかしいと思っても言えない」というフリーランスは少なくありません。
法律があっても、実際に権利を主張できなければ保護の実効性は限定的になります。
KADOKAWA事件が示したもの
今回の件で注目すべきなのは、「大企業だから大丈夫」ではないという事実です。
むしろ大企業ほど、
- 発注件数が多い
- 担当部署が複数ある
- 現場と法務部門に距離がある
ため、ルールの徹底が難しいケースがあります。
さらにKADOKAWAは2024年にも下請法上の「買いたたき」で勧告を受けていました。今回の事案は、コンプライアンス体制の継続的な改善の難しさを示しているともいえます。
契約書の整備
フリーランス法の基本は、「取引条件を明確にすること」です。
行政書士は、
- 業務委託契約書
- 発注書
- 業務仕様書
- NDA(秘密保持契約)
などの整備を支援できます。
発注者側のコンプライアンス支援
企業側の対策として、
- 契約フローの見直し
- 発注管理体制の整備
- 社内研修
を行うことも可能です。
違反後の対応よりも、予防法務のほうが圧倒的に重要です。
フリーランス側の相談窓口
フリーランスは法務担当者を持たないことがほとんどです。
そのため、
「この契約で大丈夫か」
「報酬額の決め方に問題はないか」
「著作権の扱いは適切か」
といった相談に応じる専門職が必要になります。
ここは行政書士が大きく貢献できる分野でしょう。
これからの行政書士に求められるもの
私のように、
- 出版業界で著作権管理を経験し
- 契約書実務に長く携わり
- フリーランスやクリエイターの仕事を理解している
行政書士にとっては、非常に親和性の高いテーマです。
フリーランス法は単なる法律ではありません。
「弱い立場の人が安心して働ける環境をつくる仕組み」 です。
その橋渡し役として、行政書士が果たせる役割は今後ますます大きくなるでしょう。
KADOKAWAのフリーランス法違反は残念なニュースでした。しかし、見方を変えれば、法律が実際に機能し始めている証拠でもあります。
違反が表面化し、行政が是正を求めることで、社会全体の取引慣行は少しずつ改善されていきます。
行政書士に求められるのは、問題が起きてから対応することだけではありません。
企業とフリーランス双方が安心して取引できる仕組みを整えること。
それこそが、「あなたの会社と地域の法務コンシェルジュ」としての価値であり、これからの時代にますます必要とされる役割ではないでしょうか。
